2011年第九回研究会の報告−現場から見た原子力問題

 第九回研究会は、原子力問題に関係した施設の専門家をお招きして、原子力発電および原子力行政の現場に詳しい専門家の視点から、現状を解析してもらいました。今回は発表者の意向もあり、公開の通知は行わず、SSU研究会関係者のみでクローズドの会合を行いました(2011年7月8日)。
 現在原発問題については、特に反原発論的な空気の中で、極端な風説が飛び交っています。特に原子力発電の現場に近い専門家その他から見た、今回の問題についての冷静な分析はかなりかけているというのが現状です。今回は、現場に詳しい専門家の目から、今回の問題の重要な点は何かを指摘してもらいました。特に話題提供者が強調したのは、現在の行政機構、特に市町村、県、そして国のレベルの驚くべき対立と意思疎通の欠如ぶりであり、それは今後どうやって修復されうるのか、かなり深刻な問題を含んでいます。
 それに関係して、科学的な知見の蓄積の不十分な、被爆量と医療の関係についても、様々な学者が自説を売り込むために暗闘を繰り返しているような点も指摘されました。
 その他多くの興味深い問題が指摘されましたが、これらがより冷静に討論されるにはまだかなり時間がかかりそうです。

2011年第八回研究会の報告−戦後占領期雑誌における「科学者天皇」表象

 第八回研究会は、早稲田大学で科学とメディアの関係を研究されている吉永さんに、メディアにおける天皇と科学のイメージの交錯について、大変刺激的なお話をうかがいました。吉永さんの話は遠く昭和天皇の皇太子時代にさかのぼり、そのメディアデビュー期から敗戦後にいたるまで、どのような形で表象が行われ、その意図はどういったものであったかについての詳細な分析でした。 
 いくつかの点が議論の対象になりましたが、特にこの「科学」というのが、分類学中心であり、他のタイプの科学ではなかったことの意味や、それがさらに戦後という文脈においてどのように変化してきたか、またこうしたメディア分析をする際の方法論的な問題、その特定メディアのタイプ、質、文脈といった点について活発な議論が行われました。
 吉永氏は今後ノーベル賞のイメージといった方に研究を展開される予定であり、今後の研究の展開が非常に楽しみに感じられます。

2011年第八回研究会のお知らせ

 サイエンススタディーズ研究会第八回目は、早稲田大学大学院政治学研究科ジャーナリズムコース(J-School)博士課程の吉永大祐さんをお招きして、戦後占領期雑誌における「科学者天皇」表象というタイトルでお話をうかがいます。

 昭和天皇の科学、特に生物学に対する興味はよく知られています。天皇の科学研究活動は戦前より報じられてきましたが、特に戦後の「人間天皇」という新たな天皇像の登場とともに「科学者天皇」は強く表象されることになります。GHQ検閲出版物の集成である「ゴードン.W. プランゲ文庫」から得た資料を元に、雑誌記事に描かれた「科学者天皇」言説がどのような意図をもって語られていたかを明らかにし、「天皇」と「科学者」、そして「人間」の三者の結合から科学について再考する、という内容で発表をお願いしています。

予定は2011年1月28日(金)16時半東大駒場18館4階コラボレーションルーム4です。通常と部屋が異なりますのでご注意ください。

2010年第七回研究会の報告−政策科学とSTS−日本における「科学技術イノベーション政策のための科学」論議を巡って

 第七回研究会は、田原さんに政策科学の現状について発表いただきましたが、単に政策科学の歴史だけでなく、それをSTSの文脈と関連付けながらその功罪を語るという意欲的なもので、規定時間内には収まらないような、多くの論点を含んだご発表でした。政策を科学するという考え方にある、科学的に整除された政策の形成という、いわば一種の夢がだんだんと後退していく様子が手に取るように分かると同時に、いわば複雑系的な理解が進む中で、先祖返りのように、線形の計画理論が復活しかねない現状は、不可解なものであるという印象を受けました。
 さらに結局のところ、異なる価値を調整するメタ理論は結局のところ形成することが出来ず、それは政策科学からは引き出せないという指摘は、政策現場での最大の問題についての単純な解はない、とはっきり示唆されたようで大変興味深いものでした。また日本の現状についても「分析なき参加論」という批判が現状の問題点をえぐっていると感じられました。参加と言えば問題解決、とでも言いかねない最近の風潮に対しては、最近多くの分野から批判の声を聞きますが、こうした表面的な風潮に対して一石を投じる発表でありました。

2010年第七回研究会のお知らせ

 サイエンススタディーズ研究会第七回目は、未来工学研究所 政策科学研究センターの田原敬一郎さんをお迎えして、「政策科学とSTS−日本における「科学技術イノベーション政策のための科学」論議を巡って」というタイトルでお話をうかがいます。
 近年、米国における「科学イノベーション政策の科学(SciSIP)」や「科学政策の科学(SoSP)」をはじめとして、エビデンスに基づいた政策形成のための研究を振興していこうとする動きが各国で活発化しています。日本においても新政権発足後の事業仕分けを1つの契機として、文部科学省が科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」関連新規事業に10億円強の概算要求を行うなど、こうした議論が本格化しはじめています。
 こうした現状を踏まえて、「科学技術政策研究(Science and Technology Policy Research:STP)」とは独立に成立、発展してきた「政策科学(Policy Sciences)」の理論、方法論研究等の系譜をそのコンテクストを含めて辿ることで、科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」を今後日本においてどのように展開していくべきかについて問題提起をしていただきます。政策科学におけるこれまでの議論はその“有用性”を巡っての試行錯誤の歴史そのものであると言えますが、これらの蓄積を「科学政策」や「イノベーション政策」に活かしていくためには、「科学・技術」が関わる諸問題に固有の困難性を考慮する必要があると田原さんは主張します。本報告では、こうした課題を克服するために、2つの研究領域−「STS」と「意思決定システム科学」−の果たしうる役割に着目し、議論をしていただきます。

 予定は2010年11月12日(金)17:00(いつもより30分遅くなります)東大駒場14号館4階407号室です。

2010年第六回研究会の報告〜開放的アプローチと中間機関-科学と社会を結ぶ制度設計

 第六回研究会の吉澤さんの発表は、従来のテクノロジーアセスメントの限界を超えて、あらたな第三世代のTAを探求するという意欲的なものでした。TAを専門家主導型から、より開放的なシステムへと移行させ、さらに従来の関心ある市民だけでなく、より様々なアクターを取り込むための、中間的な制度の設計というプログラムは、多くの可能性と、同時にいくつかの困難な問題を含み、刺激的な議論が展開されました。
 特にアセスメントという概念が、単なる評価ではなく、より複雑なフィードバックを含む制度であり、かつ多くのアクターを巻き込むという方向性には、その内容の複雑化、政治的意思決定との関係の問題、時間的要請など、乗り越えるべきいくつかの問題が指摘されました。他方、従来の線形的な未来予測の誤謬を超える観点としては、この方向が基本的に正しいので、ここら辺は今後解決すべき、重要な問題であると多くの参加者が同意しました。
 多くの分野からの参加者があり、Science Studiesの醍醐味を満喫できる会でした。

2010年第六回研究会のお知らせ

サイエンススタディーズ研究会第六回目は、東京大学公共政策大学院特任講師の吉澤剛さんをお招きして、「開放的アプローチと中間機関-科学と社会を結ぶ制度設計」というタイトルでお話をうかがいます。

 科学・技術と社会に関わるSTS研究者、政策研究者、サイエンスコミュニケーター等は中間者ですが、日本においては自らの活動を再帰的に引き受けられる制度が整っていません。こうした状況で、社会への介入を見据えながら、どのように活動を開放的に展開すればよいのでしょうか。第三世代テクノロジーアセスメントや知識交流の実践とその分析を通じ、資金配分機関や学会、NPOなど科学・技術と社会に関わる中間機関の可能性を探ります。


 予定は2010年6月4日(金)16:30〜、東大駒場キャンパス14号館4階407号室です。