2009年第二回研究会の報告〜実験装置の誕生

 第二回研究会は、7月17日に山口まりさんに走査型トンネル顕微鏡(STM)の歴史について、発表をお願いしました。近年のラボラトリ研究や、科学史の動向でも、こうした実験装置が持つ科学的実践上の役割の重要性について、関心が高まっていますが、現場でリアルタイムの観察をするラボ研究に比較して、歴史的資料からこうした分野に肉薄する研究はまだまだと言う印象があります。
 山口さんはナノテク系のラボでの経験を生かしつつ、この装置の発展の過程について、いくつかのステップに分けて紹介してくれました。議論の中では、この探針を用いて金属表面を走査するという発想の起源(そもそも走査という過程はそれほど斬新な発想ではないのになぜこのときまでできなかったのか)、この装置で得られるデータの信頼性をどうやって科学者達に認識させたか(表面を見てもねえ、と言う反応もあったという)、またこの装置の最初の目的がどのような形で、変化してきたかと言った問題から、そもそも物質の表面を観察するという分野が独立した領域として存在しているのか、さらにこの装置の発展の過程は他の装置、たとえば電子顕微鏡といたものとどういう関係にあるか、と言ったさまざまな論点について議論が行われました。
 こうした新しい装置がどのような形で、受容あるいは拒否され、それがどのような過程で新たな認識の領域を構築していくのか、そうした興味深い問題設定の端緒となることを予想される発表でした。

 次回は、製品開発において、デザインという観点がどのような役割を持つかを研究している、科学技術政策研究所の長谷川氏に発表をお願いする予定です。(9月3日木曜日)