2014年第18回研究会報告 Hans=Jorg Rheinberger教授講演会

サイエンススタディーズ研究会第18回は、5月26日に、文化人類学教室、科学史教室と共催で、もとマックスプランク研究所科学史部門所長のHans-Jorg Rheinberger教授をお招きし、Writing the history of science with experimental systemsのタイトルで、講演および討論会を行いました。

Rheinberger教授は、Synthesizing protein in test tubeその他の著作で有名な生物史研究者であり、特に詳細な実験過程の歴史的研究と、デリダ等のフランス思想を融合させた独自のアプローチを展開されている研究者です。今回の講演では、特に上記の著作で示されている、experimental systemsという概念の詳細をお話になり、討論の時間はその概念の持つ効用と限界、20世紀を席巻した、in vivo, in vitroという体系に代わる、あらたなin silicoのシステムにおいて、同様の概念が使えるのか否か、法科学や、生態学等にもこうした概念の拡張は可能か、現在のポストゲノム体制の意味について活発な議論が交わされました。

またバシュラールに関心が強いRheinberger教授は、今後公開された彼の遺稿集におけるアート面の研究もなさりたいとのことで、その精力的な活躍ぶりに関係者は大いに関心をもって会は終了しました。(その後の懇談会では、ハイデガーやドイツの科学史とかの話題で盛り上がりました)。

2014年第19回研究会報告 SSU STAP細胞問題討論会

サイエンススタディーズ研究会第19回は、SSUの主要メンバ数名を中心に、現在紛糾しているいわゆるSTAP細胞にかかわる一連の騒動について、その社会、制度的背景を、(発表者の希望により)、クローズドの形式で討論を行いました。その内容は、背景となる理研の組織的な構造変化、理研における広報の歴史的変化、さらに現在の科学政策における不正防止問題の推移といった論点です。

議論は予定時間を越えて、活発な内容になりましたが、その中で特筆すべきは、この問題の始まりからのメディアの報道のあり方、不正と過失のあいまいな境界、メディアに登場するSTS学者やいわゆるガバナンス学者といったコメンテータの功罪、さらにはこうしたメディアを騒がす事件が起こった際の政策上の反応や、規制強化という解法への疑問と、多岐にわたり、通常の議論とは異なる、より反省的な議論が展開できたと感じられました。

2014年 Luc Boltanski 教授講演会関係(予告)

本研究会の幹部である、山口富子先生(ICU)が来る7月18日にリスク論をめぐるワークショップをICUで行いますが、それに先立ち、国際社会学大会にあわせて来日予定のLuc Boltanski 教授をその前日の17日にICUにお招きして、基調講演をお願いする予定です。
Boltanski 教授は現在フランス社会科学高等研究院(EHESS)の所長であり、もともとP.Bourdieuの共同研究者でしたが、その後『正当化の論理』『資本主義の新たな精神』等の共著を通じて、現代フランスのもっとも影響力のある社会学者の一人です。

予定では17日は、福島がディスカッサントをつとめる予定で、詳細はまたお知らせします。