2012年第13回研究会のお知らせ

 サイエンススタディーズ研究会第13回は,、本学博士課程の鈴木舞さんに、ニュージーランドの法科学研究所における調査を元にした「法科学実践の標準化と課題」というタイトルで発表をお願いします。

 近年、犯罪捜査や裁判過程で様々な科学知識が利用されるようになり、法と関連した科学である法科学(Forensic Science)への関心が高まっています。
 法科学とは、犯罪の証拠資料の分析などを通して犯罪捜査や裁判に貢献する学問ですが、それが扱う対象の多様性から、法生物学や法化学といった様々な分野を含んでおり、それぞれの分野では異なる知識や技術に基づいて証拠資料の分析を行っています。その一方でこうした諸分野間および国際的に法科学実践を標準化しようという試みが行われています。
 ニュージーランドで犯罪の証拠資料を分析している法科学研究所での1年半にわたるフィールドワークをもとにした本発表では、こうした法科学の標準化のプロセスを概観しそれが抱える課題も明らかにします。

科学捜査はドラマ等ではよく取り上げられますが、その実態が詳細な研究で明らかにされるのは世界的にも稀です。ふるってご参加ください。



日時 2012年6月30日(土)14時、東大駒場14号館4階407号室。(通常と曜日、時間が異なりますのでご注意ください)

2012年第12回研究会の報告(科学としての当事者学)

第12回研究会は、熊谷さんの最新の研究成果を待ち望む様々な参加者に恵まれ、多くの活発な意見交換がなされました。熊谷さんには発表を特にアスペルガー症候群のケースに限ってもらい、具体的な感覚の問題から、さらに科学的方法としての「当事者学」の可能性(およびその問題点)にも自由に論じて頂きました。熊谷さんの理論的かつユーモアあふれる発表には、多くの聴衆も魅了されていました。

従来の「心の理論」とそれ以降のロンドン学派への鋭い批判を展開される一方で、実はここで議論されたデータが、心の理論の枠組みと矛盾しないのではないか、といった反論もなされ、白熱した討議がなされました。

また会の終了後には、教室が和やかな交流会になり、当事者の方々、研究者、出版社の人など、色々な輪の中で有意義な意見交換が出来たようです。今後の展開が楽しみです。

2012年第12回研究会のお知らせ

 サイエンススタディーズ研究会第12回は現在小児科医で、東京大学先端科学技術研究センター特任講師をなさっている熊谷晋一郎さんに、「科学としての当事者学」というタイトルで、発表をしていただきます。

熊谷さんは、新生児仮死の後遺症で脳性まひを持っており、電動車いすで生活をなさっていますが、その経験をまとめた、『リハビリの夜』は、その強烈な記述と新鮮な理論的アプローチで、新たな身体論の誕生として、新潮ドキュメント賞を受賞しております。他方特に自閉症を中心として、その当事者を内側から理解する試みとして、「当事者学」を提唱なさっており、学際的な観点から、活発な研究活動を展開されています。

今回のご発表では、どちらかといえば、障害者のある種のエンパワメントの手段として理解されがちな当事者学を、むしろ厳密な学として考えるという観点から、あえて「科学としての」という形容詞をつけることで、その学としての可能性、効用、そして限界や問題点といったものを総括的に討議することを企画しております。

医学、発達認知科学実験心理学、認知ロボティクス、現象学などといった分野での知見を総合する学としての当事者学という構想が、科学技術社会論的な視座とどう絡み合うか、その可能性を追求してみたいと思います。

日時 2012年3月9日(金) 15時から(通常と異なりますのでご注意ください)
東大駒場14号館4階407号室です。

2011年第11回研究会の報告(ビジネス・エスノグラフィ―イノベーションのための質的研究)

第11回研究会の田村さんの報告は、エスノグラフィックな研究とイノベーションの結びつけ方について、消費者の行動や、世界各地でのデータ収集の事例等、具体的で多様なケースと、それらを理論的なモデルに纏め上げていく、認知心理学的な手法が一体化しており、大変興味深いものでした。高梨さんのコメントは、こうした手法の可能性と問題点を同時に指摘する鋭いもので、全体の討議は非常に盛り上がりました。

今回は出席者も、STS関係のみならず、デザインの専門家や科学コミュニケーション、経営学といった多くの分野の方々に参加していただき、この分野への熱い関心の度合いが目に見るようにわかりました。多くの方々が忘年会のタイ料理店にも合流して、辛いヤムウンセンに舌鼓をうちつつ、激動の2011年を振り返りました。

2011年第11回研究会のお知らせ

サイエンススタディーズ研究会第11回は、田村大さん(博報堂上級研究員/東大情報学環iSCHOOL)に

「ビジネス・エスノグラフィ―イノベーションのための質的研究」
という内容で発表をお願いします。

近年、定量データに基づく決定を旨とする「客観的経営」の威光は陰り、質的研究への産業の期待が高まっています。このような趨勢の下、田村さんが過去10年余りに渡り、実践的研究者として、民族誌をビジネス、とりわけ新たな価値創造を目指すビジネスイノベーションに活かすべく進めてきた取り組みを、御自身が手がけた実例を交えながら紹介していただきます。

田村さんご自身は東大のイノベーション学校http://ischool.t.u-tokyo.ac.jp/
を中心に活躍なさっており、イノベーション研究と民族誌エスノグラフィー)がどう融合するのか、大変興味深い試みを展開なさっています。今回はコメンテータとして前回発表していただいた京大の高梨さんに再度登場お願いしております。

日時 2011年12月16日(金)17時東大駒場14号館4階407号室(予定)
※会終了後忘年会を予定しております。

2011年第十回研究会の報告−多職種グループでの継続的なミーティング活動を対象としたフィールド会話分析の試み

 第十回研究会の高梨さんのご発表は、科学未来館を含む複数のフィールドを中心として、様々なミーティングにおける複雑なコミュニケーションの諸相を、長期にわたるビデオ録画を中心として、古典的な会話分析と、組織論的観点を結びつけようとする、野心的なものでした。こうした研究は、多くの場合、ある場面を一部取り上げてそれを細かに取り上げるというのが中心的な手法ですが、高梨さんはそうしたミクロ分析の視点を生かしつつ、それを長期にわたるプロジェクト全体の動きと絡めながら、ミクロ−マクロをつなぐ視点を探求するという点でチャレンジングなものでした。
 論点は、こうした長期的データの中からどうやって適切なミクロデータを取り出すか、という方法論的な質問から始まり、ミーティング場面に限定することの功罪、複雑な職種間のインターフェイスの諸相、あるいは会話場面における権力関係、議事録の役割と政治性、まだ存在しない実態を議論するための道具や絵の役割、さらにこうした分析がどういう文脈で現場に還元されるのか、といった多くの刺激的な議論がなされました。
 工学的な認知研究と、より人文的なコミュニケーション研究を自在に行き来する高梨さんの研究スタイルに、来るべき新たなコミュニケーション研究の可能性を垣間見た気がします。

 次回の研究会は、今回都合により参加できなかった田村大さん(博報堂上級研究員/東大情報学環iSCHOOL)に発表をお願いする予定です。

2011年第十回研究会のお知らせ

 サイエンススタディーズ研究会第十回目は、科学技術振興機構さきがけ/京都大学学術情報メディアセンターの高梨 克也さんに「多職種グループでの継続的なミーティング活動を対象としたフィールド会話分析の試み」というタイトルで、日本未来館における新規展示制作についての非常に興味深いフィールド調査の成果をご発表いただきます。

高梨さんの専門は会話分析、コミュニケーション研究で、VNV(Verbal, Non Verbal)研究会を主催なさっていますが、最近では複雑な組織的環境における会話分析にも挑戦なさっています。

また今回はコメンテータとして、東大情報学環を中心にしたイノベーションスクールを主導なさっている田村大さん(博報堂上席研究員)もお招きしております。

非常に興味深い議論が期待されますので、皆様是非ご参加くださるようお願いいたします。

日時 2011年9月29日木曜 16時半から。東大駒場14号館4階407号室。